バイオ系博士課程のGoro (@BioDr_goro) です。
- 将来は研究職に就きたい
- 博士進学に興味があるけど将来が不安
- 博士号を取得するメリットがわからない
- どんな気持ちの変化があって博士進学するのか気になる
2019年,私は博士課程の1年目を終えようとしています。
そんな私も,修士1年のころから就活を始め,修士卒として企業研究者を目指していました。
博士課程に対する負のイメージを抱いていたにも関わらず,様々な気持ちの変化があり進学を決意しました。
紆余曲折を経て,私が博士課程へ進学した理由を記事にしました。
そもそも博士課程とは
「今何やっているの?」
学外の方に身分を聞かれて,
「博士学生です」
と答えても,「博士課程」の存在を知らない人が多いです。
それもそのはず。日本で博士課程に進学するのは1年に1.5万人しかいません。
4年制の大学を卒業すると「学士」という学位が与えられます。
その後,大学院という隠しステージが待っており,2年間の修士課程,さらに3年間の博士課程を経て,「修士」「博士」という学位が得られます。
医学部や薬学部の場合,博士課程は4年になります。
修士と博士の違い
理系の場合,3年生の半ば〜4年生の頭に研究室へ配属されます。
修士課程で卒業すれば3年間研究に携わることになります。
修士課程のゴールは,教員や先輩から与えられたテーマを遂行し,専門知識やテクニカルなスキル,文章作成能力を習得することだと思います。
一方,博士課程ではその研究分野を拡張させるためのテーマを立ち上げ,
仮説を証明するための研究計画を練り,実行するという研究のPDCAを1人で回さなければいけません。
さらに,自分の成果を学会や論文を通して世の中に伝えたり,研究資金を調達してきたり,後輩の指導をしたり…
と多角的な能力を磨く必要があります。
研究者として生きていくための総合力を身に付けるのが博士課程です。
私が修士卒で就職しようとした理由
研究は好きでしたが,修士1年の冬まで博士課程に進学しようとは思っていませんでした。
その理由は,以下の通りです。
- 進学してマイノリティになるのが怖い
- お給料を貰って自由に使えるお金が欲しかった
- 博士課程まで進学すると就職先に困るのではないかという不安があった
- ラボの博士が大変そうにしていた一方,就職した修士卒の先輩が充実してそうに見えた
「恐怖心」が進学を拒否していたのです。
もし,周囲の学生がみんな博士進学し,卒業後も職を得ていたら迷ってはいなかったでしょう。
マイノリティーになる道を選ぶことは躊躇って当然です。
私が博士課程進学を決意した経緯
中の上クラスだった学部1年〜3年
私のGPAは2.2–2.5でした。良くも悪くもありません。
バイトでお金を稼いで趣味とサークルを楽しみながら,テストでは怒られない程度の点数は取得する,バランス型の大学生。
テスト期間以外に真面目に勉強をした記憶はありません。
このときは,まさか博士課程まで進むとは思ってもいませんでした。
そもそも,博士課程の存在を知らなかった気がします。
研究に没頭した学部4年〜修士1年夏
志望していた研究室はありました。
「面白い」と感じた講義をしてくださった教授の研究室です。
無事に志望研究室に配属されてからは,研究室の同期の誰よりも結果を多く残してやろうと奮起し,学部4年から研究に打ち込みました。
研究のモチベーションは,「研究で人の役に立ちたい」とか「自分の知的好奇心を満たしたい」とか,そんな高尚な理由ではありません。
研究を頑張れば頑張っただけ,同期よりも「名前の知れた良い企業の研究職」に入れる,という下心が原動力でした。
周囲の指導のおかげもあって,修士1年の夏には十分なデータが集まり,国際誌へ投稿する論文を執筆し始めました。
就活解禁までに論文が通っていたらアピールポイントになってちょうどいい,と打算的な気持ちを抱いていたため,修士2年の3月までに論文がアクセプトされるよう励みました。
周囲の反応が変わってきたのはこの頃からです。
研究に打ち込む姿を見ていた先輩たちは,私のことを博士課程への進学を勧めてくることがありました。
しかし,周りの意見に反して修士で卒業する気満々でした。
「恐怖心」から博士課程を拒絶していたからです。
博士進学する気はなかったものの,研究成果は挙げられていたので研究活動は好きでした。
したがって,就職先としてメーカーの研究職を志望していました。
博士進学を考え出した修士1年夏〜修士1年秋
博士進学を考えるようになった大きな転機がありました。学科のOB・OG会です。
卒業生の講演を聴き,「博士号を取得した方がいいのではないか?」と考えるようになりました。
以上のようなお話を伺いました。
それならば,働きながら博士号を取れる社会人ドクターでいいのではないかと思いました。
地獄の沙汰も金次第,お金は大事です。
社会人ドクターのブログを読むと,
研究の感覚を取り戻すのに1年
終業後に研究室に行って実験
結婚や出産といったイベントと重なる年齢にハードワークを強いられる
などお金をもらいながら博士号を取れること以上に,負の側面が見えてしまいました。
また,企業がお金を出して博士課程へ入学させてくれるため,博士号を取ることがその企業にとってプラスにならないと判断されると,そもそも社会人ドクターになれないというリスクもあります。
その場合,博士号取得を諦めるか,会社を辞めて学生に戻らなければなりません。
茨の道を進むくらいなら修士卒でもいいや,と博士号取得への思いが離れていきました。
博士進学を決意した修士1年冬
私が所属する研究室では,就活解禁前 (修士1年冬) に指導教員との面談がある。
指導教員に進路について聞かれ,
「メーカーで研究職!人々の生活に役立つものを作ります!!」
と元気に答えたところ,
「月並みな意見だね」
と一蹴されてしまいました。
それなりに成果は出していた自信があったので,他と同じと言われると複雑な気持ちになりました。
気がつけば1時間以上も進路相談に付き合ってもらい,博士号を取得してから企業へ就職した研究室OBの紹介までしてくださりました。
気持ちが冷めぬうちにOBの方とお会いし,疑問に思っていたことはすべて伺いました。
博士進学にあたり,懸念事項は博士課程での苦悩や,卒業後の就職問題,会社での金銭的な待遇でした。
ストレートな質問にも親切に答えていただきました。
終電まで2人で飲みつづけ,いいOBに巡り会えたことに感謝です。
「博士進学しても将来困ることはなさそう」と思い始め,進学に対する恐怖や不安は薄れていきました。
その後,当時付き合っていた彼女に「就職か進学かじゃなくて,将来どうしたいかでしょ」と諭され,
両親には「経済的な心配はしなくていいから好きなことをやればいい」と後押しされました。
そして,修士1年の年明けに博士進学を決意しました。
研究職を目指しているのであれば,社会に出るのが3年遅れるのは遠回りではありません。
人生80年だとしたら,そのうちの3年なんて短いものです。
博士進学を迷っている修士へのメッセージ
博士号についてネットで調べると,どうしてもネガティブな意見ばかりに目がいってしまいます。
アカデミアのポストは少ない。かといって民間企業への就職も容易ではない。
私の場合,博士課程で培ったハードスキル (専門性,技術力,英語力など) やソフトスキル (問題発見・解決能力,チームマネジメント力,タイムマネジメント力など) を高く評価していただき,志望企業の研究職の内々定を得ることができました。
就活については後日まとめる予定です。
少なくとも私が所属する研究室の博士卒では,アカデミア・民間企業問わず,みなさん活躍されています。
路頭に迷っている卒業生はいません。
もし,あなたが研究好きであり,経済面・環境面・健康面で問題がないのであれば,博士進学を考えてもいいと思います。
研究職を狙っているのであれば,「なぜ修士で卒業したいのか?」を整理してください。
私のように,恐怖に動機付けされていませんか?
スティーブ・ジョブズはスタンフォード大学で名言を残しています。
If today were the last day of my life, would I want to do what I am about to do today?
(もし今日が人生最後の日だとしたら,今やろうとしていることは本当に自分がやりたいことだろうか?)
研究が好きなのであれば,やりたいことは「企業に入ること」ではなく「研究をすること」ではないでしょうか?
恐怖や不安,焦りを飲み込み,将来自分がどうなりたいのかを考えてみてください。
研究を生業にしていきたいのであれば,博士課程は遠回りではないはずです。
- 研究は好きだったので,研究職に就きたかった
- 「博士課程での苦労」や「就職が困難」に対する不安から,進学から目を背けていた
- 多くの方々と話をする中で,博士進学に対する恐怖が薄れていった
参考図書
博士進学を迷っているときに読んだ本です。
博士課程に進学することで鍛えられる力や,卒業後のキャリアパスについて書かれています。
博士号を取得しても,アカデミアや民間企業で研究を続けていない方のキャリアも紹介されています。
博士進学には慎重になりましたが,後悔は全くしておりません。
博士課程では自分の知的好奇心が満たされると同時に,世の中の科学に役立っている実感も得ています。
博士進学に不安を感じている修士の方々に,この記事が少しでもお役に立てていたら幸いです。
博士課程におけるリスクと対策をまとめた記事も合わせてご覧ください。